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『ソロモン諸島でビブリオバトル ぼくが届けた本との出会い』に学ぶ 好きなことに情熱を注げる人の影響力は大きいということ 

好きなことに情熱を注いだ青年の記録

ビブリオバトルって知ってますか?
簡単に言うと、本の紹介ゲームです。
このゲームには、本の紹介をする「バトラー」と、バトラーのプレゼンを聞き読みたいと感じた本に投票する「参加者」が存在します。

バトラーは順番に「推し本」を5分間ずつ紹介します。その後参加者とバトラーの間で3分間の質疑応答をし、最後に参加者が一番読みたいと思った本を投票ます。得票が多かった本が「チャンプ本」となります。
とても単純なゲームです。
そんなビブリオバトルに魅せられた著者の益井博史さんは、JICAの海外青年協力隊としてソロモン諸島に派遣され、ビブリオバトルを通じて子供たち「本っておもしろいよ!」と伝える活動をしてきました。

『ソロモン諸島でビブリオバトル』はその活動の記録です。

ちなみに、ビブリオバトルは日本で生まれたゲームです。
その知的ゲームが太平洋の島々でどう受け入れられるのでしょうか。

おもしろかったところ

ソフィーがこの本で面白いと思ったのは以下の点です。

  1. 独創的でユニークな発想
  2. 益井さんが気づきを得ていく過程
  3. ビブリオバトルが現地で普及する過程
  4. ソロモン諸島の歴史と環境

1. 独創的でユニークな発想

まず、ビブリオバトルを広めるために海外青年協力隊に入るなんて、普通は思いつきません。
益井さんは、大学生の時にビブリオバトルに魅せられて以来、自ら主催し普及活動をしてきました。
そんな大好きなビブリオバトルを海外青年協力隊の「青少年活動」と呼ばれる職種に結び付けてしまうという発想が面白いと思いました。
そして縁もゆかりもなく、危険を伴う土地にビブリオバトルだけを引っ提げて行く勇気に感服しました。

2. 益井さんが気づきを得ていく過程

ソロモン諸島の公用語は英語です。だから、教科書も英語です。
でも、もともと現地で話されている言語が存在しています。
全島の共通語は英語と現地語が混ざって形成された「ピジン語」です。
子どもたちは、普段はピジン語で話し、学校教育は英語で受けるという状況です。

現地で盛り上がっていたビブリオバトルですが、益井さんが一つ不満に思っていたことがありました。
それは本をそのまま読み上げる生徒が多かったということです。
本来、ビブリオバトルはバトラーが本の内容を消化し、自分の言葉でその魅力を語るゲームなのです。
それがなかなかできなかったそうですが、益井さんは状況をガラッと変えてしまう、ある光景を目にしました。
アリスという名の少女が、低学年の子に本の内容をピジン語で説明しているのを見かけたのです。
以下、引用です。

ああ、なるほど・・・・。
低学年の子だとまだ英語がわからないから、ピジン語で説明しているんだ。
本は英語で書いてあるけど、普段話す言葉はピジン語なので、ピジン語の説明のほうが頭に入りやすいのだろう。
「あっ!」
思わず空を見上げた。ぼくの目にはビブリオバトルの天使が映っていた。
あるいはそれは、ソロモンの精霊だったのかもしれない。
<中略>
さて、その翌日。
いつものように、教育局に集まった子供たちの前で言う。
「今回から、ビブリオバトルにルールを一つ加えるよ」
子どもたちがかるくどよめくのがわかる。
「ビブリオバトルでは、英語を禁止します」<中略>

ざわめきを制して、ゲームを始める。
一人目はリサというアリスと同学年の女の子だ。英語が使えないので、ピジン語で語りだす。<中略>

おおお!?自分の言葉で話している!これまでどんなに言っても本の文章をそのまま読むだけだったのに!
やっぱり子供達には「発表といえば英語を使わないといけない」という思い込みがあったのだ。
でも、正しくない英語を使うと先生や周りの友達に注意されてしまうので、ビブリオバトルのときでも本に書いてある「正しい英語」を使っていたのだろう。
英語を禁止にして、ピジン語のみにしたとたんに発表が自分たちの言葉になっていった。
そして、思わぬ副産物として、いつもなら発表を集中して聞き続けられない子供でも、ピジン語なら黙って座って聞いていた。

ソロモン諸島でビブリオバトル ぼくが届けた本との出会い.
益井博史 著. 子どもの未来社, 2020.

この気づきは、とてもドラマティックだと思いませんか?

そしてもう一つ、母国語で学び思考することの大切さと、英語を公用語にすることのメリットとデメリットを改めて考えました。
それについてのソフィーの考えや体験は「母国語で教育を受けることができる幸運について考えた」にまとめてあります。

3. ビブリオバトルが現地で普及する過程

益井さんはソロモン諸島全体の学校に普及させるという目標を持ち、赴任地の地元でまずビブリオバトルを開催しました。
第1回めの開催で手ごたえを感じたので、毎週開催することにします。
その過程を通じて現地で効果的な開催手法を探り、ソロモン諸島全体に広める足掛かりをつかもうとします。

日本とは異なる環境や文化的背景を持つソロモン諸島に合わせた工夫を加え、他の地域や島で開催していきます。
どの学校でも、先生も一緒にみんな楽しんでくれました。
そして、益井さんがいない時にも継続して開催している学校が現れたり、隣国にまで広がったりしたそうです。
その過程に胸が熱くなります。

4. ソロモン諸島の歴史と環境

ソロモン諸島ってどこだっけ?というくらい、ソフィーにとってはなじみの薄い場所です。
太平洋のミクロネシアとか?あのあたり?くらいの知識しかありません。
本書のコラムには、ソロモン諸島の歴史や環境が解説されており、興味深いです。
この島に住む人たちの祖先はそもそもどこから来たのか、第二次世界大戦では日本軍と連合軍の戦場にされたこと、島民は戦争と無関係なのに熾烈な戦闘に巻き込まれていったことなど。
第二次世界大戦関係で「ガダルカナル島」という地名を聞いたことがあると思います。そのガダルカナル島がソロモン諸島のひとつです。

益井さんの報告によると、現地ではWi-Fiも学校図書館も十分整備されているとは言えない状況だったそうです。
通学環境も過酷で、ぬかるみや険しい坂道を何時間も歩いて登校する子供がいるかと思えば、川で小舟に乗って通学する生徒もいて、中には、通学途中にワニに襲われて亡くなる人もるそうです。
トビや鷲に襲われるのではないかと、田舎の山道をびくびくしながら登下校していたソフィーだったら、きっと不登校になっていたと思います。

このように、読書促進活動をする環境として恵まれたものではなかったことがわかります。
「読書なんて高尚なことよりも、環境整備が先でしょう」と感じてしまう、そんな中での益井さんの奮闘が印象的です。

ソフィーにとってのビブリオバトル

ソフィーは一度だけビブリオバトルに参加したことがあります。
バトラーではなく聴衆の一員である参加者としてですが。
本が持つ可能性を信じるソフィーとしては次のことに魅力を感じました。

  1. バトラーが熱く語る「推し本」
    バトラーはなんとか「推し本」の魅力をわかってもらおうと、時にはユーモアを交えて本の魅力を熱く語ります。
    人によっておもしろく感じたり好きと思う部分が違うので、たとえ自分が知っている本が紹介されたとしても、思ってもみなかった新たな視点を得ることができます。
    また知らない本であれば、読んでみたいと思わされます。
    そうこうしているうちに、様々な本の魅力を多面的にとらえることができるようになります。
  2. 本を介したコミュニケーションと知的刺激
    質疑応答のときに、会場から色々な質問が飛び交います。
    バトラーは臨機応変にそれに答えます。
    その生々しいやりとりがとても面白いのです。
    そして本を介したコミュニケーションが知的刺激を生み出します。

このように、参加するだけで「開眼」する体験ができることも魅力です。

好きなことに情熱を注げる人の影響力は大きい

この本を通じて強く思ったのは、「好きなことに情熱を注げる人の影響力は大きい」ということです。
著者が文化も言葉も違う土地に行き、周囲を巻き込むことができたのは、何よりもビブリオバトルが好きだったからです。

一方、ソフィーにはそれほどまでして好きなことってあるだろうか?と考えてしまいました。
日々、「やらなくてはいけないこと」に追われ、何事もバランスよくこなそうとしているうちに、自分が好きなことは一体何なのかということすらわからなくなってしまったのではないかと思います。
本来、行動の原動力は「好きなこと」「自分がワクワクすること」であるべきはずです。
それが「やらなくてはならないこと」に支配されているように思います。

ソフィーは、自分もいつか人にいい影響を与えられる人間になりたいと思って生きてきました。
これを読み、今さらながら好きなことに焦点を当てた「自分探し」を意識して日々を過ごすようになりました。

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